顧問による講評(要旨)

 実務者による成果報告の後、「幸せリーグ」の顧問である広井良典氏、坂田一郎氏、神野直彦氏からの講評が行われました。

○広井良典氏
 それぞれの発表を非常に印象深く伺いました。発表を伺って、幸福度に関する政策がいわば第二段階に入ってきていると思いました。幸福に関する政策を進めていこうという理念の提唱が第一段階だったとすると、第二段階ではより具体的な政策展開に結びつくかたちで動こうとしています。例えば、発表では、幸福度に関連した調査の深掘り、個別の施策へのフィードバック、また地方創生や人口減少といったテーマ、地域間比較さらには地域間連携について触れられましたが、こうしたことからも次の段階に移行していると感じました。

 幸福度に関してローカルな自治体が主導的に進めているという点が、国際的に見た場合の日本の特徴ではないかと思います。ブータンが提唱するGNHも、OECDが報告書を出している地域幸福度指標も、国や国際機関が指標を作り、それを地域にあてはめて地域間比較をするものです。日本の場合、ローカルな自治体が独自の指標を作ったり、関連の政策を主導的に行ったりしています。国際的に見ても、非常に誇れるものだと思います。

 そういう意味で今日の発表は、このテーマの最先端と言えます。どれも未開拓のテーマですので、どの自治体も試行錯誤の中で進めていると思われます。さらに研究を深めていくのと同時に、何らかのかたちで積極的に公表・発信していくことも重要になってくるのではないでしょうか。

○坂田一郎氏
 本日の発表を聞いて、幸せリーグが大きな前進を遂げていると感じました。

 幸福度指標の活用については、行政機関による施策はどうしてもインプット重視型、つまり何々をどれくらい実施したということになりがちなのですが、幸福度指標を導入することによってアウトプットからの評価も行えることが大きなポイントだと思います。アウトプットの評価は、定量的な指標だけではできない部分があり、やはり主観的な指標も活用することが非常に重要だと思います。

 発表では、属性ごとの分析やクロス集計などを試みていましたが、経営学の中のサービスマーケティングのアプローチに近いと思いました。行政もサービスですので、どのサービスがどういった層に評価されているのか、どのようなサービスがどういった層に求められているのか知ることは大切だと思います。

 分析手法について一言申し上げると、例えば、ある施策を評価する人はこういう施策も評価しているといった施策群のグループ化や、逆に施策群全体としての感じ方が似ている住民の方をグループ化するといった多角的なアプローチも考えられます。また、サイレント・マジョリティといった、アンケートには答えないけれどtwitterなどソーシャルメディア上では様々な発信をしている人もいます。私もソーシャルメディアの情報を分析しており、そうした情報を活用することで地域の様子も見えてくると思います。

 公的指標の活用について、総合計画や総合戦略の話がありましたが、我々が考えないといけないのは、リソースの制約かと思います。自治体の予算には限りがあるわけで、施策の中身や幅をどうするか、どこに重点的に投資するかの両方を考えていく必要があるかと思います。地域とか年齢層といった属性で差異が見えている指標については、重点化の方向性を考える上で参考になると思います。

 施策については、参加、交流、対流、横の連携というお話が印象的でした。国土交通省の国土計画では、「知的対流」という言葉がキーワードにあがっていますが、都市と地方の知的交流は、地域の幸福度だけでなく経済的活動の面でも重要だと思います。

○神野直彦氏
 幸せリーグも第5回の総会を迎えたことで、広井先生がおっしゃるように一次的なステップから二次的なステップへ、私の言葉で表現すれば、絵に描いた段階から、操作像つまり実際に動かしてやってみる段階になり、より一層使命が増したのではないかと思います。こうした努力を重ねてこられました皆様方に深く敬意を表します。

 人間の歴史が方向性を失って混乱している今、幸せリーグは人間の歴史的な意味で重要になってきたと思います。混乱の原因は誰もがわかっているはずです。人と人との結びつき、特に地域社会における絆が弱くなり、世界に不安感があふれているからです。そして世界には憎しみと暴力があふれ始めています。例えば、国境を越える難民・移民などによって、伝統的なコミュニティが壊されてしまうかもしれないという不安感から、暴力的な手段を使ってでもコミュニティを守ろうとする動きもあります。また、他者への関心が失われると、私たちの命を育んでくれる環境への関心も無くなり、環境が破壊されると幸せが破壊されるのです。

 日本を考えても世界を考えても、今、非常にまずい状況になっています。そうした時に何が必要かと言いますと、人間の歴史をもう一度、人間のあたたかい手と手を取りあった結びつきの上に築いていくことです。

 混乱の時代には、物事の本質を見つめて、その本質を見失わないことが重要です。そもそも地方自治体の任務、そして使命は、地域住民や地域社会の悲しみを幸せに変えることです。当たり前の根源的な事実を忘れないことが重要なのではないでしょうか。

 日本の地方から始まり世界へつなげていく、幸せリーグを第二ステップとして、ますます発展させていく、こうした使命が今ほど求められている時期はないと思います。

最終更新日:平成29年10月13日