幸福度調査等の政策反映

○はじめに
 グループ①では、幸福度調査などの分析・評価の方法を検討し、どのように政策に反映するかを検証する目的で研究を行ってきました。特に調査結果の政策反映が共通の課題として挙げられ、この課題を解決する鍵として、どのような視点で調査結果を分析するか、また、分析を多様化することで政策判断の材料を増やすことが重要であると考えました。
 そこで、本研究においては、先行する幸福度調査においてどのように分析を政策判断に活用しているか、複数の自治体の幸福度調査を比較することを通じてどのような点で幸福度が異なるのか、という2つの視点で掘り下げることとしました。

○幸福度調査を活用した政策判断
 「荒川区民総幸福度(GAH)に関する区民アンケート調査(以下、「GAH 調査」)」では、区民の幸福にとっての重要度と実感度の分布を作成しています。荒川区の分析では、重要度と実感度の平均値で領域を4つに分けており、そのうち、重要度が高く、実感度が低い領域に分布した指標を、住民の期待に応えるために向上させていくことが必要な指標と位置づけ、関連する施策の推進を提言しています。
 このほか、例えば重要度と実感度がともに高い指標に重点を置き、高い水準を維持するという政策判断も考えられますが、本研究では、さらに3つの視点で調査結果を掘り下げてみました。
 1つ目は、各指標の重要度の経年変化に着目し、重要度が年々上がっている指標の関連施策に重点を置くという視点です。分析の結果、各GAH 指標の重要度に大きな経年変化は見られませんでした。
 2つ目は、前述した重要度と実感度の分析を分野ごとに行うものです。実際にこの分析をしてみると、安全・安心分野の重要度は高い一方、実感度が低い指標が多いため、この分野の施策を推進する必要があるといえます。
 3つ目は、「現在あなたは幸福ですか」という質問に対する実感度と各指標の実感度との相関係数の分析です。この相関係数が高い指標ほど幸福実感度との関連が強いといえるため、該当する指標に関連する施策に重点を置くという判断ができます。

○他自治体調査との比較
 複数の自治体の調査結果を比較することで、他自治体との共通項や違いが整理され、地域の特性や強み、課題、住民の価値観などを考察・発見できるのではないかと考えました。
 そこで、本グループでは、荒川区のGAH調査の結果と、GAH指標を用いて調査を行った徳島県阿南市の幸福度調査結果を比較しました。これまでも幸せリーグの実務者会議において、複数の自治体調査の比較を行った研究はありましたが、全く同じ指標で結果を比較するのは本研究が初めてとなります。
 まず、「現在あなたは幸せですか」という質問に対する実感度の平均値を比較したところ、荒川区と阿南市では自治体の規模や人口などが異なるものの、幸福実感度にさほど大きな違いが見られませんでした。また、性別で見ますと、荒川区と阿南市ではいずれも女性の方が幸福実感度が高い結果になりました。このことから、なぜ女性の方が高いのか、他の自治体でもそうなのかなど、さらに研究を深めることが可能となります。
 年齢で見ますと、阿南市では年齢が高くなると幸福実感度が高くなる傾向にありますが、荒川区ではこのような傾向が見られませんでした。このように、2つの調査を比較したときに結果が異なる指標は、自治体による特徴が出やすい指標だと考えられます。

 なお、GAH 指標は個人の実感を尋ねるものであり、住民目線での課題解決、施策考案に役立ちます。しかし、分析を進める際は個人の実感にとらわれすぎず、その自治体として痛みを伴ったとしても、長期的・大局的な観点から実施する必要のある施策があるということに留意する必要があります。

○おわりに
 最後に、誰もが調査結果を分析でき、その結果を共有できる仕組みづくりを提案します。
 具体的には、本グループの分析で使用したエクセルシート等を用いて実感度の平均値や重要度を算出してグラフ化できるように、自治体職員が用いる共通分析フォーマットを作成します。さらに、その分析結果等の比較を容易にするため、各自治体が実施している幸福度調査等の結果を取りまとめ、例えば幸せリーグのホームページ上にリンクを張り、閲覧できるような仕組みが考えられます。
 分析方法の共有により分析の幅が広がるほか、担当職員が各自で分析作業ができるなど、分析ツールの導入を容易にし、調査結果がより一層政策に反映されやすくなる環境を整えられると思います。また、より多くの自治体の調査結果を比較できるようになることで、自治体ごとに特徴の出やすい指標はほかにあるのか、分野の重要度は各自治体で同じようになるのかなど、より多角的な分析が可能になると考えています。


●講評
 幸福度調査というものは、そのままの単純な結果からは政策判断をしにくいことが、重要なポイントになります。そこで、他の自治体と比較をして、要点を探すというのは非常に優れたやり方です。そもそも、これさえやれば幸福になるということはあるはずがないので、あくまでも調査結果は気づきのきっかけであり、施策のヒントを与えてくれるものであるとし、だからこそもっとみんなが使いやすいようにしようというのは、面白い研究のまとめ方です。
 それでは、幸福度の実感や重要度の要因は「何か」となりますが、これを探るのは大変難しいことです。世の中の人は自治体の中だけで生活していませんので、個人の周りの出来事や景気の良し悪し、または大きな災害などに幸福度は大きく影響されます。そこで因果関係を探す必要がありますが、これが難しく、課題となります。そこで、幸福度を政策に反映させるために役に立つのが、提案されていた「みんなが使えるようにする」ことです。
 幸福度というのは企画部門だけで取り組んでいることが多く、全体の平均を見ているのですが、それだけで改善につなげることは難しいものです。しかし、個々の部局で各担当者が幸福度と関連付けて、例えば政策の目的や対象と幸福度との関係を分析すると、何か工夫ができる可能性があります。幸福度の調査結果の使い勝手を良くして、みんなが活用し、その成果を共有していくと、より一層幸福度を政策に生かすことができるようになるのではないかと考えられます。

実務者会議の各グループの発表内容は参加自治体の公式見解を表すものではありません。

最終更新日:令和2年3月6日