人口減少・少子高齢化・雇用問題

○はじめに
 グループ③は、人口減少・少子高齢化・雇用問題という幅広いテーマでしたが、各自治体の抱える課題などを意見交換する中で、共通した課題が人口減少であったため、それに対する各自治体の対応策の中心となる移住・定住施策について研究を進めることとしました。

○先進事例(東京都奥多摩町)
 奥多摩町では、早い時期から人口減少対策を行っており、若者の移住・定住化を最重点施策と位置づけ、積極的な取り組みを進めています。そこでグループ③では実際に奥多摩町を現地視察し、若者定住化対策室から施策についてご説明をいただき、質疑応答・意見交換を行ったほか、町の事業として入居者を募集している住宅を見学しました。
 実際に見学した若者定住応援住宅は、主に町に寄附された空き家への入居者を募集し、15年間居住した場合に無償で土地と建物をその方に供与しています。また、町営若者住宅は、移住する若者を対象とした町営住宅であり、おおむね月2~3万円という安価な使用料で居住することができます。
 「奥多摩町の事業はテレビ等のメディアで取り上げられることが多く、情報発信力が高い」「今後の事業を企画するための気づきが多くあった」など、参加自治体が事業を実施する上でのヒントを得られただけでなく、「視察した物件は少し古い感じがした」「町でリフォーム等をすればもっと人気が出るのではないか」「移住体験からいかに就労につなげられるかがポイントである」といった奥多摩町の事業に対するフィードバックの意見もあり、お互いに有意義な視察になりました。

○移住・定住施策の傾向・特徴
 続いて、幸せリーグ加入自治体を対象にアンケート調査を行い、全国の移住・定住施策の傾向を研究しました。調査項目は、下のスライドのとおり10項目になります。なお、アンケートには67自治体から回答をいただきました。

 まず、移住・定住に関する施策の実施状況について、9割以上となる61団体が「現在実施している」と回答しています。
 次に、施策を実施している自治体の開始年度については、平成27・28年前後に回答が集中しています。これは、平成26年に「まち・ひと・しごと創生法」が公布され、全国の自治体で地方版総合戦略が策定された時期に重なります。東京一極集中の是正を図るために、「まち・ひと・しごと創生法」には移住・定住の考えが取り込まれていますので、このタイミングで移住・定住施策を開始した自治体が多かったのだろうと推測できます。
 続いて、施策内容について分類してみますと、住宅助成や移住体験をおよそ半数の自治体で実施している反面、就労支援を実施している自治体が非常に少ないという意外な結果が出ました。また、少し独特な施策として、通勤・通学の補助を行っているという自治体が一部見受けられました。
 そのほか、施策に関する課題については、「移住希望者の雇用確保が難しい」「財源の確保が難しい」「活用できる空き家が少ない」「お試し移住が観光目的になっている」といったものが挙げられました。特に「自治体間で移住者を奪い合う形になっている」という課題については、移住先を決める判断材料が、自治体が行う助成金額の多寡になりがちであり、本当に伝えたい自治体の魅力が伝わりづらくなっていることを、担当者が歯がゆく思っているという意見もありました。ほかにも、「施策の実績の把握が難しく、施策に対する効果の検証ができない」という意見もありました。

○おわりに
 各自治体では、地域に合わせた様々な施策を行っていますが、一方で、「効果がない」「実績を把握できない」といった課題も多いことがわかりました。その中で、現地視察を行った東京都奥多摩町のように、他の自治体に先駆けて早期に移住・定住施策に取り組み、独自の施策を積極的に打ち出して成果が出ている例もあります。
 今回のアンケートでは、就労に関する施策が少ないことがわかりました。一般のアンケート調査では、移住を考える人が希望する施策は就労に関するものであるというデータもありますので、多くの自治体で対応が遅れている現状が見えてきます。実際、今年度から都道府県と市町村を対象とした地方創生推進交付金(移住・起業・就業タイプ)の交付が始まりました。これは、東京圏から地方に移住し、就業した人に補助金を交付するものであり、まさに移住先の就業に関する対策が取られたといえます。
 地方版総合戦略は、多くの自治体では今年度で期間満了となるため、第2期の開始年度となる令和2年度に全国的に見直しがされます。今回の研究内容が、各自治体の今後の参考になれば幸いです。


●講評
 研究をするときにはテーマをきちんと絞らないといけないのですが、このグループは大きなテーマだったということもあって移住・定住施策に絞り、さらに実態のアンケート調査も集計をして数値を見るだけでなく、課題の調査もされたのは大変よいことです。研究として、就労対策が遅れているという立派な結論が出ていると思いました。
 現在、国のほうでもそれを何とかしようということで、マッチングが大事とは言っていますけど、どうしたら成功するのかまではよくわかっていない。そこで、幾らかお金をつけるような経済的支援にとどまっています。
 しかし、人間が移住するということは、そういった支援等を単に比較するような相対的なものではないと思います。考えなければいけないことは、そもそもなぜ人に移住してきてほしいのかということです。急速に人口減少が進んでいますから、ちょっとやそっと移住してきても間に合いません。ここで、よく先進自治体で聞かれるのは、高齢化したときに若者が少しでも来てくれると、ものすごい刺激になるということです。そうすると、刺激を与えてくれるような人が来たほうがいいのではないかと考えますが、刺激を与えてくれる人というのは、ただ住んでいるわけではなく、何かしら仕事をしています。そういう人がしてみたい仕事がそこになければ人は来ないし、そうでない仕事を無理に当てがっても、なかなか効果が表れないかもしれない。就労支援においては、そのような視点でもう一段深く調べてみると、より効果的な施策が考えられるかもしれません。

実務者会議の各グループの発表内容は参加自治体の公式見解を表すものではありません。

最終更新日:令和2年3月6日