町おこし・観光振興

○はじめに
 グループ⑤では、議論の初めに「町おこしや観光に力を入れたいが観光資源がない」「うちの町は小さいし、知名度もないため、人気のある観光地のまねでもしてみようか」といった問題提起がありました。しかし、会議を重ねていくうちに、ふだんの何気ない当たり前の風景や建物でも、外から見てみると魅力ある資源であることに気づかされました。そこで、ほかにはまねができない「本物」を売り出すこと、観光名所や予算が少ないなどの課題に対しては、近隣の自治体と協力することが重要ではないかと考えました。
 本グループからは、「本物の売り方」や「広域連携」についての参加自治体の事例と、新たな観光プロモーションになると考えられる観光PR 動画をご紹介します。

○ブランディングで「本物」をつくる
 和歌山県みなべ町は、梅の最高品種である南高梅の発祥の地で、梅の生産量が日本一です。これまで、梅の消費拡大を図るため、甲子園球場でのPR のほか、梅の医学的効能や機能性を大学等に委託するなどの取り組みを進めてきました。しかし、農業従事者の高齢化による後継者不足や、梅の収穫時期における人手不足などが課題となっています。
 これら梅をめぐる課題について和歌山県と議論する中で、世界農業遺産という話が出てきました。世界農業遺産とは、国連の専門機関の1つである食糧農業機関(FAO)が2002年に始めた取り組みで、次世代に受け継がれるべき重要な伝統農業、農村文化、農村景観などを一体として認定し、その保全と持続的な活用を図るものです。評価のポイントとなったのは、梅と人々の暮らし、生態系との関わりでした。地域が一体となって高品質な梅をつくり続けているだけでなく、薪炭林を残して山を守り、ミツバチを受粉に利用するなど、梅をめぐる豊かな生物多様性を維持していることが評価されました。この世界農業遺産の認定を契機とし、梅の魅力を全国へ、そして世界へ発信するために、日本貿易振興機構(JETRO)と連携し、梅加工品の海外市場へのブランディング強化と販路開拓を行っています。平成30年10月には、ニューヨークにおいて外国人のシェフによる梅を使用したスイーツの発表会を開催するなど、一層の知名度アップを図り、世界農業遺産に認定された梅と梅干しの消費拡大を目指しています。
 次にご紹介するのは、山形県真室川町と鮭川村の事例です。真室川町と鮭川村は、山形県の最北端に位置していまして、この地域には8つの市町村があります。これら各市町村で古くから栽培されてきた野菜について、「最上伝承野菜」として認定をし、ブランド化を行っています。認定の基準としては、昭和20年以前につくられた野菜であること、自家採種されて長年子孫に受け継がれてきたものであることの2つです。飲食店への提供はもちろんのこと、伝承野菜フェアの開催、地域の古民家を利用したレストランでの提供、スイーツの材料として活用するなど、消費拡大や周知活動に力を入れています。

○広域連携の事例
 次に、広域連携の事例について、3つほど簡単にご紹介します。
 1つ目が、「空がつなぐ自治体連携」と題して、第二次世界大戦当時に空でつながっていた旧鶉野飛行場ゆかりの4市(兵庫県加西市、兵庫県姫路市、大分県宇佐市、鹿児島県鹿屋市)が新たな連携を行う予定です。
 2つ目が、日本の空の玄関口である成田空港を拠点として7自治体(千葉県の佐倉市、成田市、香取市、銚子市、酒々井町、神崎町、東庄町)が連携しており、北総地域を車で周遊するPR動画を作成しています。
 3つ目が、イザベラ・バードによる自治体連携ということで、英国の探検家であるイザベラ・バードがかつて日本を旅した際に訪れた各地域が連携して、「みち」というキーワードを観光資源に活用するため、各方面に参加を呼びかけています。

○鮭川村の観光PR動画
 鮭川村出身の著名なテレビディレクターの方に、「自治体の規模が小さいので予算も少ないが、おもしろい観光PR動画をつくれないか」とお願いしたところ、ご了解をいただきまして、さらに、そのテレビディレクターの方とつながりのあるお笑い芸人の方に出演していただけることになりました。
 作成する際には、企画から撮影まで多くの地域住民に関わってもらうために、企画について地元の中学生とテレビディレクターの方が意見交換をしたり、制作ボランティアを地域住民から募集したりしました。
 動画を発信することによって、テレビでも話題になったほか、「動画を見て鮭川村に住んでみたいと思った」という移住の動きもあり、単なる観光のPRだけではなく、村自体を皆さんに知ってもらう機会になりました。また、当初は奇抜なものにしたいと考えていましたが、思ったよりほのぼのとした動画になりました。しかしその分、地域住民みんなでつくった動画だという意識が生まれたので、本当に地域づくりに役立ったと感じています。


●講評
 このグループの面白いところは、町おこしと観光が一緒になっていることです。観光というと大抵決まったものをアピールするのですが、それを外して、それ以外にいいものはないかと探して、自分のところで持っているものをアピールしようとしたのは大変良いことだったと思います。
 よく「本物」と言っても、自分たちで本物だと思っているだけということがあったり、逆に外から違う目で見てもらうと気がつかなかった良さがあって、益々その「本物」がよくなることがあります。また、その「本物」を伝えようとしてもなかなか理解してもらえないこともあります。「本物」を伝えるためにどうすればよいかを知るためには、より広い視点で検討する必要がありますので、そういう意味でも広域連携に取り組みながら、新しい魅力を発掘していくことは良いことです。
 また、観光というと、いろいろPRをして何かを見に来てもらうことが多いですが、先進国になってくると、観光の性格も変わってきます。一番高級な旅というのは、物を見に行ったり物を買ったりする旅ではなく、人に会いに行く旅ではないかと思います。幸せな人が居て、誰かに会いたいと思うようなまち、これは観光資源がなくてもできることです。観光でお金が落ちるということだけではなくて、人が来てくれて互いに幸せになれることを考えていくと、さらにもっと発展性があると思いますし、そのようなまちの観光は非常に安定すると思います。

実務者会議の各グループの発表内容は参加自治体の公式見解を表すものではありません。

最終更新日:令和2年3月6日